暗号資産の利益が少しずつ大きくなってくると、必ず一度は頭をよぎるテーマがあります。
「そろそろ法人化した方が、税金おトクなんじゃない?」
X(旧Twitter)やYouTubeを見ていると、
- 「専業トレーダーはみんな法人にしてるよ」
- 「法人化すれば税金半分になる」
みたいな刺激的な言葉もたくさん流れてきますよね。
でも、実際に一歩踏み出そうとすると、こんな不安も出てきませんか?
- 個人事業主のままでも十分なんじゃないか
- 合同会社や株式会社を作ると、お金も手続きも大変そう
- 節税になるって聞いたけど、本当に「手取り」が増えるの?
この記事では、そんなモヤモヤを抱えた暗号資産トレーダー・投資家の方に向けて、
- 個人事業主として暗号資産をやる場合
- 合同会社・株式会社など法人として暗号資産を持つ場合
を、税金の仕組みと「手残り」のイメージからじっくり比較していきます。
・「法人化した方が節税になる」は、一部の人には本当だけど、全員には当てはまらない話です。
・まずは、個人事業主 vs 法人で税金の“構造”がどう違うかを、感情抜きで整理してみましょう。
「法人化した方がいいですよ」という言葉って、どこか甘くて魅力的ですよね。でも、甘い話ほど“固定費”と“手間”という影がくっついてきます。
今日はその影の部分まで含めて、一緒にライトを当ててみましょう。
第1章|まずは土台から:暗号資産トレードと税金の「基本ルール」
1-1. 個人(会社員・個人事業主)の暗号資産は「雑所得」スタート
日本では、個人がビットコインやアルトを売買して得た利益は、原則として「雑所得(その他)」に区分されます。
- 会社員:給与所得 + 暗号資産の雑所得
- 個人事業主:事業所得 + 暗号資産の雑所得( or 事業所得 )
雑所得は総合課税なので、
- 所得税:5〜45%(累進課税)
- 住民税:おおむね一律10%前後
という世界になります。所得が増えるほど税率も階段状に上がっていくイメージですね。
・個人の暗号資産は、現時点では株やFXのような「一律20%の分離課税」ではないこと。
・「あなたの年収+暗号資産の利益」で税率が変わる、というのが今のルールです。
1-2. 個人事業主になると「事業所得」の選択肢が出てくる
トレードや投資の規模が大きくなり、
- 継続的にかなりの時間をかけている
- 帳簿を付けて収支管理をしている
- 生活の主な収入源になっている
といった条件が揃ってくると、税務上、暗号資産の利益を「事業所得」として扱える可能性が出てきます。
事業所得になると、
- 青色申告特別控除(最大65万円)
- 他の事業との損益通算
- 赤字の繰越控除
など、個人事業主ならではの“節税の道具”が使いやすくなります。
暗号資産トレードが“趣味の延長”から“事業”に変わる瞬間、税金のルールも静かにステージを変え始めます。
「自分はもう趣味の範囲を超えているのかも…?」と感じたら、そこで一度立ち止まって考えるタイミングかもしれません。
1-3. 法人が暗号資産を持つと「法人税+期末評価」の世界へ
一方、合同会社や株式会社を作って、会社名義で暗号資産を持つ場合。
- 利益は法人税・法人住民税・事業税などの対象
- 中小企業なら実効税率はざっくり30%前後〜35%程度になることが多い
- 決算期末に、保有している暗号資産を時価評価するルールがある(銘柄や状況によっては原価法選択などの改正も)
ざっくりまとめると、
- 個人:利益が大きいと最大55%まで税率が上がるけど、含み益には課税されない
- 法人:税率は個人の最高税率より低くなりやすいが、「期末評価」「固定費」「二重課税」といった別の要素が乗ってくる
という構図になっています。
・「法人なら税率が低いからお得」と思われがちですが、“含み益への課税ルール”や“固定費”まで含めて見ないと現実は見えてこないんですよね。
第2章|個人事業主として暗号資産トレードするメリット・デメリット
2-1. 個人事業主の「税金の器」はこうなっている
まずは、個人事業主の基本から整理しておきましょう。
- 税金:所得税(5〜45%)+住民税(約10%)
- 暗号資産トレードが事業として認められれば事業所得になる可能性
- それ以外は雑所得として分けて計算
青色申告を選択していれば、
- 青色申告特別控除(10万円 / 55万円 / 65万円)
- 家賃・通信費・PC・モニター・セミナー費などの経費計上
- 他の事業との損益通算
といったメリットが使えます。
・個人事業主は、少額でも基本は全部申告が前提。
・その代わり、「経費」「控除」「損益通算」という3つの武器を持てる立場でもあります。
2-2. 個人事業主のメリット:柔軟さと“生活レベル感”の近さ
暗号資産トレーダーにとって、個人事業主のままでいるメリットはかなり大きいです。
- 開業届と青色申告承認申請書を出すだけならほぼコストゼロ
- 赤字になっても、法人のような均等割(最低でも毎年かかる住民税)はない
- 事業の規模を、「生活レベル」に合わせてゆるやかに調整しやすい
- 暗号資産以外の副業(ライター・デザイン・コンサルなど)と同じ器の中で損益通算できる
専業トレーダー志望でも、「最初のステージ」としては個人事業主のままで、
- 帳簿をちゃんとつける
- 経費の考え方に慣れる
- 自分の年間利益の“クセ”を把握する
ところから始めるのは、とても現実的な選択です。
数字だけを見ると、早く法人化したくなる瞬間ってあります。でも、毎月の売上もメンタルも安定していないうちは、「個人事業主の柔らかさ」がむしろ守ってくれることが多いんですよね。
2-3. 個人事業主のデメリット:税率の“天井”は高いまま
とはいえ、個人事業主にも弱点があります。
- 所得が増えるほど、累進課税で税率が上がる
- 高所得ゾーンに入ると、所得税45%+住民税10%で最大55%まで行く可能性がある
- 暗号資産の損失は、原則として翌年以降に繰り越せない(※事業所得として認められるなら別)
特に、
- 暗号資産で年間300万〜500万円以上の利益が安定して出る
- 他の事業収入と合わせると、毎年けっこうな高所得帯に入る
という人は、「個人のまま+高税率」のしんどさを感じ始めるゾーンです。
第3章|法人(合同会社・株式会社)で暗号資産を持つと何が変わる?
3-1. 法人の税金の構造:実効税率はざっくり30〜35%
中小企業の法人税は、
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 事業税
などを合計した「実効税率」で見るのが一般的です。規模や地域にもよりますが、
- おおむね30〜35%前後
とされることが多いです。
個人の最高税率(55%)と比べると、
- 利益が大きくなるほど、「法人の方が税率面で有利」になりやすい
という構造になります。
3-2. でも忘れちゃいけない「固定費」という現実
法人化すると、どうしても増えるコストがあります。
- 会社設立費用(登記・定款認証など)
- 税理士報酬(法人決算は個人より複雑になりがち)
- 赤字でも毎年かかる法人住民税の均等割
- 社会保険(厚生年金・健康保険)の会社負担分
「税率が下がるから節税!」と聞くと魅力的ですが、
- そもそもの利益が安定していない
- トレードがまだ「爆益と爆損のジェットコースター」状態
という時期に法人を作ると、固定費だけが重くのしかかることになりかねません。
・法人化を考えるときは、「税率」だけでなく「固定費+事務負担」も必ずセットで見ること。
・「税金が減っても、トータルのキャッシュアウトが増える」ケースも普通にありえます。
3-3. 暗号資産特有のポイント:期末評価と含み益課税
法人が暗号資産を保有する場合、もうひとつ重要なのが期末時価評価のルールです。
- 決算時点の時価で評価し、その差額を利益(または損失)として計上する
- つまり、売っていなくても、含み益に対して法人税がかかるケースがあり得る
- 一部の暗号資産については、原価法などを選べるような改正も進んでいて、ルールが少しずつ変化中
個人の場合、
- 「売ったとき」または「他の暗号資産に交換したとき」などに課税
ですが、
- 法人の場合は、「決算日という“タイミング”で一度リセットされる」イメージ
を持っておくとわかりやすいかもしれません。
期末評価で含み益に課税される怖さを知ったとき、多くの人が初めて“会社で持つリスク”を実感します。
「税率は下がったけど、キャッシュフローは苦しくなった」という声も、正直少なくありません。
3-4. 法人化の「二段階課税」も忘れずに
もうひとつ、よく見落とされがちなポイントがあります。
- 法人で利益を出す → 法人税を払う
- そのお金をあなた個人に出すときに、給与(役員報酬)や配当として再び個人の税金がかかる
つまり、
- 法人で一度課税
- 個人で二度目の課税
という「二段階課税の世界」なんですね。
もちろん、役員報酬の設定の仕方次第で、
- 法人側の利益を減らして税金を抑える
- 個人側で給与所得控除を活かす
といった工夫もできますが、ここはかなり設計力が必要なゾーンです。
第4章|「いくらから法人化が有利?」をざっくりイメージする
ここまで読んで、きっとこう思っているはずです。
「で、結局いくらくらい利益が出るようになったら法人化を考えればいいの?」
正直に言うと、「これが正解」という一本線はありません。
でも、暗号資産トレーダーのケースを見ていると、だいたいこんな感覚はあります。
4-1. 暗号資産の年間利益300万円までは「まず個人事業主で整える」ゾーン
- 利益が年間100〜300万円くらい
- 他の事業・本業を合わせても、そこまで高所得帯ではない
こういうケースなら、
- 法人化より先に、「個人事業主としての整備」を優先した方がいいことが多いです。
たとえば、
- 開業届を出して、きちんと帳簿をつける
- 暗号資産を事業所得として扱えるか、税理士に一度相談してみる
- 経費の考え方を見直して、事業としての線をハッキリさせる
この段階でいきなり法人化してしまうと、
- 法人の設立費用
- 税理士費用
- 均等割
などが重く、「個人のままの方が手残りが良かった…」となりがちです。
4-2. 年間利益300万〜500万円:法人を「検討し始める」ゾーン
暗号資産だけ、または他の事業も含めて、
- 毎年コンスタントに300〜500万円以上の利益が出ている
- かつ、今後もその水準かそれ以上が続きそう
という人は、
- 「個人で高税率を受け続ける」
- 「法人で固定費を払いつつ、税率を下げにいく」
というどちらの選択肢も現実的になってくるゾーンです。
この段階でやってほしいのは、
- 税理士さんに「今の数字」と「ざっくり3年くらいの見込み」を正直に見せる
- 個人のままの場合と、合同会社・株式会社にした場合のシミュレーションを出してもらう
こと。
「税金だけを見れば法人有利。でも、あなたの生活リズムや不安の大きさまで含めると、答えが変わることもあるんです。」
このゾーンは、まさに「数字」と「自分の性格」を両方見て決めるステージだと思います。
4-3. 年間利益500万〜1000万円以上:本格的に法人化を検討するゾーン
暗号資産トレードなどで、
- 利益が500万〜1000万円以上
- それが一発のラッキーパンチではなく、複数年続きそう
という人は、
- 「法人化を本格的に検討するステージ」に入っていると考えていいと思います。
個人のままでは、
- 所得税・住民税を合わせた実効税率が30%〜40%以上になってくるゾーン
なので、
- 法人実効税率(30〜35%前後)
- 役員報酬の設計
- 家族への給与分散(実態があれば)
などを組み合わせることで、トータルの税負担を下げられる余地が見えてきます。
もちろん、
- 期末評価課税の影響
- 社会保険料の増加
- 法人維持の手間
も加味したうえで、「それでも法人にする価値があるか」を一緒に考えていくイメージですね。
第5章|こんな人は個人事業主のまま、こんな人は法人を検討
5-1. 個人事業主のままが良さそうな人
ざっくりですが、こんな人はまだ個人事業主のままで十分な可能性が高いです。
- 暗号資産の年間利益が、毎年バラバラ(+200万、−300万、+50万…など)
- 本業(会社員や別事業)がメインで、暗号資産はサブの位置づけ
- まだ帳簿や経費の管理に慣れていない
- 法人の固定費を払うことを考えると、精神的な負担の方が大きそう
5-2. 法人化を検討してもいいかもしれない人
逆に、こんな人は「税理士に法人化の相談をしてみる価値が高い」タイプです。
- 暗号資産トレードや関連ビジネスで、毎年安定して300〜500万円以上の利益が出ている
- 今後数年も、その規模かそれ以上で続けていく意思と見込みがある
- すでに帳簿・経費・確定申告は慣れていて、もっと精度を上げたいと感じている
- 家族を巻き込んで、「小さなチーム」として事業を育てていきたいイメージがある
「もっと早く法人化しておけばよかった」という後悔と、「なんで法人にしちゃったんだろう」という後悔。どちらも“情報不足”から生まれます。
だからこそ、数字と自分のライフプランの両方をテーブルに乗せて、落ち着いて眺める時間を一度とってあげてほしいんです。
第6章|これから税制が変わるかもしれない。その前にできる準備
6-1. 個人暗号資産に20%課税が来るかもしれない未来
日本では今、
- 暗号資産を株やFXのような申告分離課税(約20%)にしてほしい
- 損失の繰越控除を認めてほしい
という要望が、業界団体や政治の場で繰り返し出されています。
もしこれが実現すれば、
- 「個人だから税率が最大55%」という今の状況は、大きく変わる
可能性があります。
6-2. だからこそ、「今のルール」で整えておく価値
ただし、
- いつから・どの範囲で変わるかはまだ確定していない
- 過去にさかのぼって有利なルールになる可能性は高くない
という現実もあります。
だからこそ、
- 取引履歴をきちんと残しておく
- 個人事業主としての帳簿を整えておく
- 法人化するなら、ルールを理解したうえで決める
といった「どの制度になっても困らない状態」を作っておくことが、今できる最大の防御だと思っています。
ルールが変わるのを待ちながらも、淡々と記録をつけている人が、結局いちばん得をしていく気がしています。
未来の税制に期待しつつ、「今のルールの中でできる最善」を準備しておく──それくらいの距離感が、心にもお金にも優しいと思うんです。
第7章|まとめ──「どっちが得か」だけじゃなく、「どっちが自分らしいか」も
最後に、この記事のポイントをギュッとまとめます。
- 個人の暗号資産は、原則雑所得(総合課税)。規模や実態によっては事業所得の余地もある。
- 個人事業主は、帳簿・青色申告・経費・損益通算という武器を持てる一方、税率の天井は高いまま。
- 法人(合同会社・株式会社)は、実効税率が下がりやすい代わりに、固定費・期末評価・二段階課税という別のハードルがある。
- 年間利益300万円までは、まず個人事業主として整えるのが現実的。300〜500万円あたりから法人化を検討する人が増え、500〜1000万円以上なら本格検討ゾーン。
- 「法人化したら得かどうか」だけでなく、自分のメンタル・生活リズム・将来像とも相談して決めるのが大事。
そして、最後にもうひとつだけ。
「どっちが税金的にトクか?」も大事ですが、「どっちの形なら、自分らしくトレードを続けられるか?」も同じくらい大事だと、私は思っています。
相場は、これからも荒れる日があるはずです。
そんなとき、
- 「税金と体制の不安」を最小限まで減らしておくこと
は、あなたのメンタルを守る静かなセーフティーネットになります。
この記事が、その一枚目のネットを張るきっかけになれたら、とても嬉しいです。
FAQ|暗号資産トレーダーの法人化・個人事業主に関するよくある質問
Q1. いきなり法人から始めるのはアリですか?
A. 不可能ではありませんが、おすすめは「まず個人事業主でスタート」です。
いきなり法人にすると、固定費と事務負担が一気に乗ってくるので、数字が安定するまではストレスになりがちです。
Q2. 暗号資産トレードだけで個人事業主の開業届を出してもいい?
A. 実態として継続性・営利性があれば、暗号資産トレードを主な事業として開業届を出すケースもあります。
ただし、「事業所得として認められるか」は個々の事情によるので、可能なら税理士への相談をおすすめします。
Q3. 法人化したら、暗号資産の税金は必ず安くなりますか?
A. 「必ず」ではありません。
利益規模が小さいうちは、固定費と期末評価課税の影響で、むしろ不利になるケースもあります。
法人化は必ずシミュレーション前提で考えてください。
Q4. 法人名義で海外取引所やDEXを使っても大丈夫?
A. 利用自体はありますが、税務・会計処理がかなり複雑になりやすい分野です。
利用する前に、暗号資産に詳しい税理士に「どう記帳するか」を必ず確認しておくのがおすすめです。
Q5. 税理士さんに相談するタイミングの目安は?
A. ひとつの目安として、
- 暗号資産の年間利益が200〜300万円を超え始めた頃
に一度相談しておくと安心です。
「個人事業主として整えるべきこと」「法人化を見据えて今から準備すべきこと」を具体的に教えてもらえます。
情報ソース・参考リンク
※以下は、本記事執筆時点で参照した主な情報源です。最新情報や個別のケースについては、必ず公式情報・専門家の確認をお願いします。
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」
- 国税庁「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて」
- 国税庁「令和◯年度 法人税改正のあらまし(暗号資産の評価方法の見直し等)」
- 国税庁タックスアンサー「所得税の税率」「事業所得と雑所得の区分」ほか
- freee・マネーフォワード等:個人事業主と法人の税金・社会保険の比較解説
- 各税理士法人サイト:法人化のメリット・デメリット、法人化の損益分岐点に関する解説
- 暗号資産業界団体・税制改正要望書:暗号資産の分離課税・損失繰越に関する提言 など
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務処理や投資行動を推奨するものではありません。
実際の税額や最適な形態(個人・法人)は、収入状況・家族構成・他の事業・居住地などによって大きく異なります。
必ず最新の法令・通達を確認し、必要に応じて税務署や暗号資産に詳しい税理士など専門家にご相談ください。

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